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2016年 冬季号
*正社員と非正規社員の待遇格差を是正するための「同一労働同一賃金」の実現に向け、政府がまとめるガイドライン(指針)案が明示された。(平成28年12月20日)
◆ 背景/急がれる非正規労働者の処遇改善
今日の労働問題の中で、解決を急がなければならない最重要課題の一つが
非正規労働者の処遇改善問題である。非正規労働者の賃金は低く、正社員には支給される賞与や退職金が支給されないケースも多い。また、基本給、各種手当(役職手当、通勤手当、食事手当、精皆勤手当、家族手当、住宅手当等)、
福利厚生(食堂・休憩室の利用、慶弔休暇の付与)、教育訓練・安全管理等で
待遇に格差がある。企業レベルでの問題解決に向けての自発的努力を期待したいが、労使双方とも極めて消極的である。
◆ 法律の成立/同一労働同一賃金推進法
2015年通常国会において同一労働同一賃金推進法(正式名称「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」)が成立した。
新法が成立した意義は大きい。同法の目的は第1条に「労働者の職務に応じた
待遇の確保を進め、労働者がその雇用形態にかかわらず充実した職業生活を営むことができる社会の実現を図る」としている。どの労働者も仕事に応じて処遇される企業社会を構築しようとする狙いが見えるが、そういう企業社会が実現すれば、「非正規労働者だから低い賃金」という不公正な現象はなくなる。
すなわち、同法は非正規労働者の処遇改善を目指しているのである。付帯決議では、政府に対して職務分析・職務評価の普及を求めており、要約すれば職務給の推進を追求し、正社員、非正規労働者の双方に共通する賃金決定方式を求めている、と言えよう。
◆ガイドライン(指針)案の明示/平成28年12月20日
指針案は、約20種類の待遇を列挙し、差をつけることが「問題とならない例」と「悪い例」を示す形式。非正規社員のうち有期契約社員とパート社員について、基本給、賞与・各種手当、福利厚生、教育訓練・安全管理の4項目に分けて待遇改善が不合理かどうかの基準を示している。
◆ガイドライン案で示される具体例の一部
○悪い例
◆勤続年数に応じて有期社員に払う給与の金額を、通算ではなく直近の契約をもとに決める
◆正社員には業績に応じた賞与を払い、業績に貢献した非正規社員には払わない。
◆現在の業務と関連のない職業経験を持つ正社員の基本給が有期社員より高い。
◆非正規社員の店長の役職手当が、正規社員の店長より安い。
○問題とならない例
◆管理職候補の正社員の給料が、同じ仕事をするパート社員より高い。
◆目標未達成の責任とペナルティーがある正社員の基本給が、ないパート社員より高い。
◆正社員にも非正規社員にも業績への貢献に応じた賞与を払う。
◆地方に転勤した正社員に地域手当を払い、その地域で採用した非正規社員には払わない。
◆ガイドライン案から読み取ること/待遇改善
○業績への貢献に応じて賞与を支払う場合、「正社員に支払って非正規社員に支払わない」のは「悪い例」とした。業績に貢献している非正規社員に対して「寸志」のような一定の定額支給する方法は、今後認められない可能性がある。
○役職手当、通勤手当、出張手当、食事手当など10種類の手当については、作業環境や勤務形態などが同じなら、雇用形態にかかわらず同一に支払うよう明記。食堂や休憩室などの施設利用、慶弔休暇の付与など福利厚生の5種類や教育訓練、安全管理に関しては、正規・非正規で同一に処遇するように求めている。このように、各種手当や福利厚生について、可能な限り「均等待遇」を求めている点が特徴だ。食事手当、精皆勤手当など、これまで裁判で非正規社員への支給が認められなかったがある手当も、同一の条件であれば支払うことを求めており、区別している企業は見直しを迫られる。
◆ガイドライン案の課題
○退職金や企業年金、家族手当、住宅手当は指針案に盛り込まれなかった。これらの手当は長期雇用を前提に支払われていることが多いため、調整が難航したとみられる。
○賃金の骨格となる基本給については、基本給を決める要素になる「経験能力」「業績・成果」「勤続年数」のそれぞれについて、正規・非正規で差がなければ同じように支払うのが原則だと明記。要素に「一定の違い」がある場合は、その金額差が「不合理」でなければ、支給額に差があっても認められます。
○派遣労働者についても、今後の議論に委ねられる部分が大きい。今の法律では、有期労働者、パート労働者の不合理な待遇格差は禁止しているが、派遣労働者については努力義務しかない。
◆今後の推移・展開
指針に法的拘束力はない。企業が待遇改善に取り組むよう指針に実効性をもたせるため、政府は早ければ来年の通常国会に関連法の改正案を提出する。
指針の運用は、改正法の施行と同時に始める方針だ。
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