2013年 秋季号
◆連合(正式名称「日本労働総連合会」)は、平成25年10月24日の中央執行委員会で「労働時間法制の見直しにあたっての連合の考え方」を承認し、その「考え方」を発表した。
<考え方の内容/要旨>
T.はじめに
●労働時間の現状を見ると、2012年の一般労働者(フルタイム)の年間総労働時間は依然として2,000時間を超えており、いまだに長時間労働が解決されていない。
●長時間労働は、仕事と家庭生活の両立の困難さや少子化の一因と指摘されているだけでなく、過労やメンタルヘルスといった問題も引き起こす。
●こうした中、2013年6月14日、政府は労働時間法制の見直しを検討すべき旨を盛り込んだ「日本再興戦略」及び「規制改革実施計画」を閣議決定した。使用者団体等からは、裁量労働制の弾力化や労働時間規制に関する適用除外制度等を検討すべきとの提言がされている。
●今般政府等が示した労働時間法制の見直しにかかる方向性や「自律的な働き方」を促すことを行えば、現在も長時間労働をせざるをえない状況にある一般労働者(フルタイム)の労働負荷がさらに過重になることは明白である。
●労働時間をめぐる現状を踏まえれば、長時間労働の是正、さらにワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)がとれた働き方が可能になる労働時間にすることこそが、喫緊の課題である。
U.現状と課題
1.いまだ解決しない長時間労働とその弊害の顕在化
(1)長時間労働
●2012年の年間総労働時間は、「労働力調査」(労働者が回答する調査)によると、パート等の非正規従業員と休業者を含む全労働者で2,095時間、男性に限れば2,340時間という状況となっている。長時間労働に起因する過労死等(脳血管疾病等)や精神障害等に関する労災補償請求件数が高水準で推移している。
なお、過労死に至る原因として、長時間労働を前提にした固定残業代制(残業代をあらかじめ固定させた賃金体系)が指摘される事案も発生している。
(2)労働時間規制に関する法整備の状況
●現行の労働時間法制についてみると、労働基準法は、週の法定労働時間を40時間に規制しているものの、労使協定の締結・届け出及び割増賃金の支払いを条件として時間外労働・休日労働を認容しており、結果的に厳しい規制とはなっていない。また、現行の労働時間法制では、時間外労働を規制するため、以下のような規定も設けられているが、時間外労働のさらなる削減をはかるためには、それらについても取り組みを進めるべき課題が存在している。
1)割増賃金・代替休暇
●わが国の割増賃金率は、国際的に比較しても、低い。
●代替休暇(60時間超の時間数分が代替休暇として処理する制度)については、有給休暇の取得率自体が5割を下回っている現状では導入状況は低い。
2)時間外労働限度基準
●時間外労働限度基準が定められているが告示に留まっている。また、「特別な事情」があれば、同水準を超える特別条項協定で、その上限時間数は実質的に無制限となっている。
2.労働時間規制のさらなる柔軟化を求める動き
●上記のように、長時間労働の弊害は深刻化しており、労働時間削減の必要性はますます高いものとなっている。それにもかかわらず、政府や使用者団体等からも、様々な規制緩和が提言されている。
3.過半数代表者制の不適正な運営実態
●過半数代表者の選出の実態を見るときわめて問題が多い。
V.基本的な考え方
1.労働時間規制が持つ意味
●現行法制は、実労働時間規制により労働時間の長さや配分方法を規制し、休憩・休日規制によって労働から解放される時間を保障している。
2.重視すべき視点
●実効性のある健康確保策を講じること重視する。さらに、ワーク・ライフ・バランスの視点や企業間の公正競争の確保の視点も必要である。
3.集団的規制と個別同意
●労働基準法は、労働時間制で、原則的な規制に対する例外を認めている。
この例外を認める場合には、集団的規制と個別同意を適切に組み合わせることが必要である。
4.実労働時間の把握
●裁量労働制や適用除外などでも、使用者は「実労働時間の把握」は必要。
W.個別の項目についての考え方
1.長時間労働削減の原則等
(1)法定労働時間の原則等
●労働基準法第40条の特例措置(週44時間)は、早急に週40時間に見直すべきである。また、携帯電話やメールなどで、本来自由であるべき私的な生活が制約されている実態が生じている。規制の在り方を検討すべきである。
(2)年間総労働時間
●「年間総労働時間1,800時間」を目指すべきである。
(3)休息時間(勤務間インターバル)
●「休息期間(勤務間インターバル)」規制を導入すべきであり、24時間につき原則として連続11時間を保障すべきである。
(4)時間外労働
●告示にとどまっている「時間外労働限度基準」を法律へと格上げする。特別条項付36協定には上限時間規制を法定化する。
●労働基準法の適用除外されている業種については規制を強化すべきである。
●限度を超えて時間外労働をさせた場合の罰則強化を図るべきである。
(5)時間外労働等の割増率の引き上げ
●法定割増率については、当面、月45時間以下については30%以上、月45時間超については50%以上、休日については50%以上に引き上げるよう法制化する。
●法定労働時間内であっても所定労働時間を超えた労働については、割増賃金の支払い義務の対象とする。
(6)代替休暇、労働時間貯蓄制度等‐金銭補償にかわる休日代替等
●代替休暇制度は大いに疑問がある。現行の代替休暇制度の見直しや労働時間貯蓄制度の導入は、慎重に検討すべきである。
(7)休憩時間
●休憩時間の一斉付与義務を免除することは認めるべきでない。
(8)法定休日労働の規制
●法定休日労働の規制については強化すべきである。
2.年次有給休暇について
(1)年次有給休暇・各種休暇
●年次有給休暇の最低付与日数を20日に引き上げる。また、家族の病気・介護休暇、配偶者出産休暇(5日)、有給教育休暇などを新設。
(2)年次有給休暇の取得促進
(3)時間単位での年次有給休暇取得
●労使協定で必要事項を合意した場合にのみ可能とする現行制度については上限日数等を定めたものとすべきである。
(4)退職時の未消化年次有給休暇に対する手当
●退職時に限って、手当により清算することを検討すべきである。
(5)年次有給休暇による不利益取扱いの禁止
●不利益取扱い禁止を定める「労働基準法附則第136条」については本則規定へと変更する。
3.労働時間規制の柔軟化
(1)変形労働時間制
●この制度の見直しは、総労働日や総労働時間の増加といった労働強化につながるものは認められない。
●天災による稼働停止等の場合は、代替日が未定であっても労働日の変更を認める。
(2)フレックスタイム制
●この制度の清算期間の延長は認められない。
●週休2日制の場合の時間外労働となる時間の計算方式の変更は認める。
(3)事業場外みなし労働時間制
●この制度は、情報システムの発展により、労働時間管理が可能となるため、適用については、厳正な運用をはかるべきである。
●「解釈例規(昭和63年1月1日基発1号)」は現代化すべきである。
(4)専門業務型裁量労働制
●この制度において、適用後に本人が希望した場合には一定の予告期間後には通常の労働時間管理に復帰保障を明文化すべきである。
●前年度の休暇取得率を踏まえた特別の休日労働規制等、健康・福祉確保措置の最低基準を法律に規定すべきである。
●この制度の導入手続きは、企画業務型裁量労働制と同様にすべきある。
(5)企画業務型裁量労働制
1)対象業務・対象労働者
●この制度の対象業務の安易な拡大及び対象労働者の範囲の拡大は行わない。
2)導入手続き
●この制度の導入手続きは、2003年の労働基準法改正前の手続きに戻すことを原則として、@労使委員会の労働側委員については、労働者からの信任手続きを必要とし、A労使委員会の決議要件は全員一致とすべきである。
3)本人同意等
●「本人同意」を維持し、適用後に本人が希望した場合には一定の予告期間後には通常の労働時間管理に復帰保障を明文化すべきである。
●前年度の休暇取得率を踏まえた特別の休日労働規制等、健康・福祉確保措置の最低基準を法律に規定すべきである。
4)手続きの簡素化
(6)ホワイトカラー・イグゼンプション
●長時間労働を助長することになりかねず、認めることはできない。
(7)管理監督者
●「管理監督者」の範囲については、具体的な定義を明確にし、不適切に拡大されて運用されている実態を是正すべきである。
4.過半数代表者制の厳格化・適正化
●労働基準法施行規則第6条の2(過半数代表者)に定められている内容を厳格化・適正化した上で、法律事項へと格上げすることを検討すべきである。
●過半数代表者制のあり方を検討するにあたっては、労働者代表法制いった大きな視点からの検討についても十分に留意すべきである。
以上
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